近所の居酒屋で

ママ:あら、いらっしゃい。
心太:(会釈だけして)
ママ:元気ないわねぇ、どうしたの?若いうちは元気がなきゃだめよ。何にする?
心太:じゃあ,とりあえずウーロンハイ。
旦那:あれ〜心ちゃんいくつになったんだっけぇ。うちに来たのは初めてだいねぇ。
心太:今19っす。
ママ:あら、まだ20になんないんだ。まぁ飲んだって平気だいね。今は何してるの?
心太:ずっと浪人してたんすけど今年一つだけ受かったんすよ。
ママ:あら、おめでとう。じゃあ今日はおばちゃんが一杯おごっちゃおうかな。
ママ:じゃあ4月から大学生ね。
心太:いや、でもどうしようか迷ってるんすよ。うち、ばあちゃんと二人暮らしじゃないすか。だから俺が山口いっちまうとばあちゃん一人になっちゃうんすよ。
ママ:えっ山口なの?どうしてあんたもっと近場の受けなかったのよ。
心太:いや、他は全部落ちたんすよ。
若干気まずい空気が流れる。
ママ:何よ、一個受かれば十分じゃない。
心太:全然名前なんか売れてないとこなんすけどね。
ママ:いいじゃない、マサさんなんか大学すら行ってないものね。
まさ(常連客):何だよ別にいいじゃねぇか。(笑いながら)あんなの行かなくてもどうにでもなるんだよ。
ママ:ほらね、こういう人もいるんだからぁ。あたしだって行ってないわよ。
心太:いや、というか行くか行かないかなんですよね。うちにはもう一回浪人する程金ないし、早く稼いでばあちゃん安心させてやりたいんすよね。
ママ:行ったらいいじゃない。ねぇ。
旦那:そうだぁ。
心太:いや、でも。。
ママ:ばあちゃんのことは心配しないの。あんたんとこのばあちゃん強いじゃない。いざとなったらあたしがみてあげるから。
心太:そうですかぁ。
まさ:兄ちゃん、お前そんな気がちっちぇんじゃ向こう行ったってやってけねぇぞ。ほら、これ一気飲みしてみろ。(ビールを差し出す。)
心太:(気合いを入れて飲み干す。)
まさ:おーし、いいねぇ。
ママ:マサさん!やめてよまだ未成年なんだからぁ。
まさ:未成年だってこれくらいのめなきゃしょうがねんだよー。
ママ:マサさんと一緒にしないで。まったくマサさんはちっちゃい頃からいたずらばっかしてたんだから。
まさ:おうよ。俺ぁねぇ、勉強なんか全然できなかったけどねぇ、遊びのプロだったんだ。お前らみたいに死んだ顔なんかいっけいもしたこたぁねえよ。
心太:(結構聞き入っている)
まさ:けどねぇ、俺もちょっと勉強しときゃあよかったとは思った。(ちょっと可愛げに)
心太:何でっすか?
まさ:やっぱねぇ、やってなかった分は全部自分に返ってくるんよ。
心太:はぁ。
まさ:そんでなっかなか仕事みっかんなくてねぇ。そしたら仕方ねえってゆうんで親父の知り合いが雇ってくれたんだよ。大した仕事じゃねえけど俺ぁ文句言わねぇで一生懸命やったよ。まして奥さんもらって、子供ができたらよお。
ママ:すぐパチンコ行っちゃうくせにー。
まさ:(言い訳がましく)それはいいんだよ。でもねぇ、(少しおいて)、俺はねぇ、何がいいっていうよりこうやって毎日楽しい酒が飲めるんがいいんだよ。田舎っていいよなぁ。俺ぁ好きだよ。
ママ:いいよねぇ、あたしも好き。
旦那:まさのやつ、久しぶりに若い子と話ができてうれしいんだろ。(笑顔で)
ママ:みたいね。
心太:(だんだん酔いが回ってきて暗さは消えて来た。)
俺向こう行くことにします。介護士の資格とって戻ってきますよ。
ママ:あー介護士になりたいんだ。
旦那:今介護士は就職いいみたいねぇ。よくわかんないけど。
ママ:でも大変ねぇ、勉強も大変なのに向こう行ったら洗濯もご飯も掃除もみんな自分よ。
まさ:それくれぇできなきゃしょうがねぇよ。
でもなぁ、兄ちゃん。これだけは忘れねぇでくんな。
ママ:今日はあの人ほんとよくしゃべるわね。
まさ:人はな、何かに熱中している時こそ周りが見えなくなることを忘れねぇで欲しい。自分だけじゃねえんだよ、支えてくれてる人が絶対いるからそれだけは忘れんなよ。家族かもしんないし彼女かもしんないけどな。
心太:(水をさすように)俺彼女いたことないんすけど。
まさ:そんなんどうだっていいんだよ。要は一人じゃねぇってことなんだ。まぁ俺はそれに気づいたのは最近なんだけどな;
心太:はぁ。
まさ:それとな、故郷を忘れないで欲しいと思うよ。俺の好きな歌手がいるんだけど、そいつがこう言うんだよ。疲れたらな、いつでもここへ帰って来ていいんだよ。そう思えばあと一つ、二つできる我慢も増えるでしょう。頑張りなさい。と。
心太:(すっかり聞き入ってしまう。)
まさ:(軽く手をあげて)おあいそ。
ママ:もう帰るの?
はい2200円。
まさ:(軽く伸びしながら)(自分勝手な感じ)はー言いたいことだけ言って今日は気持ちよく寝れるなー。俺ぁもう帰って寝るだけだ。あっこれ子供にもらってくよ。(レジにあったキャンデーを一つ二つ手に取りその手を軽く上げてからポッケに入れる。)
時計を映す。針はまだほんの8:10を指している。
まさ:(暖簾をめくって)んじゃまた来るわ。
車で帰ってしまう。
心太:俺もそろそろ帰ります。(金を出す。)
暖簾をめくり外へ出る。(夜空を少し見上げる)
心太:っしゃ!!(夜に向かってでかい声を出す。)

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